2017-10

マタ旅…

妊娠中の旅行の事を、“マタ旅”と言うらしいですが…

医療費600万、言葉通じない 台湾人客、早産で窮地
2017年4月19日 09:49 琉球新報

 妊娠7カ月の台湾人観光客の女性(20)が沖縄旅行中の3月30日に、
出産が早まり、急きょ南部医療センター・こども医療センター(南風原町)で884グラムの子を出産した。
同病院や受け入れ先では中国語での対応ができず、母親とのコミュニケーションが困難で、
現在、県内の台湾出身者らがボランティアで通訳している。
県内の一部医療機関では多言語への対応や外国人患者に向けての医療サービス環境の構築を進めているが、
まだ十分でないのが現状だ。

 夫(23)と3月29日に来沖した女性は、30日午前4時ごろに破水。
那覇市の沖縄協同病院に緊急搬送された。赤ちゃんの体重が1500グラム以下と推定されたため、
南部で唯一未熟児の特別医療措置が受けられる南部医療センターに再搬送された。
女性と家族は現在、離島や北部地域から病児や家族を受け入れる「がじゅまるの家」に宿泊している。

 女性の夫は「赤ちゃんの健康状況や医療費用の支払いなどに非常に悩んでいるが、
これまで助けてくれた医者らに感謝したい」とも述べた。

 がじゅまるの家で活動するNPO法人こども医療支援わらびの会の儀間小夜子理事は
「緊急医療などを受けた外国人患者の心のケア態勢がまだできていない」と指摘した。

 赤ちゃんは南部医療センターで特別医療措置を受けており、
医療費用は最低でも約600万円かかるという。
しかし、出産は海外旅行保険の補償対象外のため、夫婦は医療負担に追われている。

 県内在住の台湾出身者でつくる「琉球華僑総会」は夫婦に約100万円を寄付する予定で、
張本光輝会長は「無事に帰国できるよう支援がほしい」と寄付を呼び掛けた。
問い合わせは同会(電話)098(862)9153。(呉俐君)


このような報道は、何故か首都圏ではニューズになりません。
また、予期せぬ窮地の外国人に対するサポート態勢の不備などを問題にしていますが、
本当に大事な問題点は、別にあるように思います。

まず“マタ旅”についてです、以前にマタ旅を勧めている会社の方とお話しする機会がありました。

『産科医療の現状を考えると、あまり医療機関が無いような田舎の温泉や、
産科施設の立地に著しい偏りのある沖縄(特に離島)、北海道への旅行はあまりお勧めできない。
また、海外旅行の場合には産科関連の病気、早産などは保険の免責事項になり、
全額自費診療になる。また、早産の場合には、生まれた新生児は長期入院が必要で、
数か月は帰国出来ない。このために、“生まれてからは行けなくなるので今のうちに”のような
宣伝は如何なものか』と質問してみました。

すると以下のような解答を頂きました…。
『私たちにとっては妊婦さんの旅行や温泉などは、ビジネスチャンスです。医療上の問題は、
関係ありません。もしもの場合には、先生方のお力をお願いします。』

何とも言いようの無い不快な気持ちになったことを良く覚えています。

“安定期に入ったら旅行に行きたい”…こんな質問は良くあります。
一般に“安定期”とは“流産しにくくなる時期”のように理解されているようですが、
本当は“胎盤が形成されて、胎児に対する酸素や栄養の供給が安定する”と言う意味で、
“流産しない時期”ではありません。

沖縄はもともと産科医師・新生児科医師が不足していて、
なおかつ本島ですら北部地方には地域周産期センターは一施設しかありません。
北部地域を支える唯一の周産期センターの県立北部病院産婦人科は、
昨年の6月より実際に稼働したばかりで、産婦人科常勤医師は3名、
早産児のケアに必要なNICUは3床だそうです。
非常に激務でしょう、本当に同じ産科医として過労死しないことを祈ります。
夜間や休日の新規救急患者の対応は出来ないとの事ですが、
診療体制を考えれば無理もありません。
この、“北部地域”に観光で人気の沖縄美ら海水族館があります。

沖縄の周産期センターは、南部・中部地域に偏在していますが、
もともと県民の周産期医療を支えるために存在しているはずです。
NICUの病床数には限りがあり、旅行で来た妊産婦のトラブルの対応で
苦慮しているとの学術論文があるほどの状況だそうです。

今回のケース、妊娠7か月で出生時体重は884gだそうです。
体内での発育に遅延が無ければ、妊娠26週前後でしょうか。
日本での妊娠26週の早産児を生存率はおそらく90%以上でしょうが、
未熟児網膜症などの後遺症の可能性は否定出来ません。
この新生児には、おそらく今後10週間前後の入院管理が必要でしょう。
その期間、ご両親は日本に滞在するのでしょうか?
医療費が自己負担になるだけでなく、ご両親の滞在費用などを考慮すれば、
今後も高額な金銭的負担が生じる事になります。

もしも今回のケースが、ハワイだったらどうでしょう。
アメリカには日本のような医療保険はありません。
分娩は自費であれば100万円前後、通常の帝王切開で200万円とも言われます。
おそらく今回のケースの数倍の医療費自己負担になるのではないでしょうか。

『まだ心拍が確認出来ない妊娠初期でつわりのある妊婦さん…。
友人の結婚式に上の子連れで(未就園児)ハワイに行く予定だが問題ないですね?』

『つわりもあるので体調にもよりますが、まだ胎児心拍も確認出来無い時期なので、
あまりお勧め出来ません。』

きっと無事であったと思いますが、その後連絡なしで来院されませんでした。


“マタ旅”、“マタニティ温泉プラン”いろいろありますが、
問題なく楽しく過ごせることのほうがきっと多いのでしょう。
今回のケースは、たまたま沖縄に来た外国人のお話ですが、
妊娠中にハワイに旅行される日本人の妊婦さんに置き換えて、
考えてみては如何でしょうか。

よく何かあったら“自己責任”などと言われますが、お産・周産期医療を専門とするものとしては、
“マタ旅はビジネスチャンス”の意見には大きな違和感を覚えます。

P2213179.jpg
無事に生まれくるまで、お腹の胎児を守れるのはお母さんだけ…。

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Author:Leopardenfrosch
赤ちゃんには、未来・夢があります。

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ひとりの産科医として、心から願っています。


   いのうえクリニック
   川崎市宮前区宮崎5-14-2
   ℡044-870-4152

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